【感想・ネタバレ】「かがみの孤城」辻村深月|私たちは助け合える
辻村深月さん「かがみの孤城」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。
目次
「かがみの孤城」内容
【あらすじ】
Amazon.co.jp「かがみの孤城」
学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。 輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。 そこには“こころ”を含め、似た境遇の7人が集められていた。 なぜこの7人が、なぜこの場所に―― すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
第15回本屋大賞を含め、数々の賞を受賞した辻村深月さんの代表作の1つ。
2022年にはアニメ映画が公開されました。
主人公は、あることが原因で学校に行けなくなってしまった中学1年生の安西こころ。
平日、彼女が部屋にこもっていると、突然鏡が光り出して中へと誘われます。
鏡の向こうには城があり、こころと同年代の少年・少女が集められていました。
「かがみの孤城」感想(ネタバレあり)
おすすめ度:★★★★★
刊行から少し経ったタイミングで読んだのですが、皆さんが絶賛している理由が分かる、良作でした。
個人的に「ぼくのメジャースプーン」や「名前探しの放課後」あたりの初期作品が好きなので、このちょっと不思議な世界観は「待っていました!」という感じです。
後半からの怒濤の伏線回収がもう、お見事。
「城」という閉ざされた空間、それぞれ悩みを抱えた複数の少年・少女という設定が、デビュー作の「冷たい校舎の時は止まる」も彷彿させますよね。
書きたいことが山ほどあるので、少し長めの感想&考察です!
時間軸のトリック
これは辻村作品あるあるですが、物語が大きく動くのは後半からです。
一方で、序盤~中盤にかけては、ラストに繋がるさまざまな伏線が張られています。
この作品で1番のトリックとなっているのが、集められた7人がそれぞれ違う年代の「雪科第五中学校」の生徒であること。(ハワイにいるリオンを除く)
城に集まった7人は、お互いがあまりプライベートなことを話さない空気になっているので、終盤まで気づけないんですよね。
そんな中で、少しずつ会話内容にズレが生じていることがわかります。
・マサムネが持っているゲーム機をこころは見たことない
・フウカが映画の2作目が凄かったと話すが、アキは2の存在を知らない
・こころがスバルを「ハリーポッターのロンに似ている」と話したとき、スバルは「初めて言われた」と返す(スバルの時代はまだ映画が公開されていない)
・学年のクラス数の認識が異なる
・お互いが知っている駅前の様子(「カレオ」や「マック」)が違う
・始業式の日程が違う
結論、彼らはそれぞれ、7年ずつ違う時間軸から城に集められていました。
・スバル→1985年
・アキ→1992年
・こころ、リオン→2006年
・マサムネ→2013年
・フウカ→2020年
・ウレシノ→2027年
そういえば、こころが萌ちゃんと話していた歌詞の「地元じゃ負け知らず」って「青春アミーゴ」ですよね(笑)
その後「ドラマ見ていた!」発言がありますが、主題歌のドラマは「野ブタ。をプロデュース」で放送は2005年。
ちゃんと時代に合っている!
喜多嶋先生の正体
フリースクールに勤めており、こころを気にかけてくれる喜多嶋先生。
中盤でこころは「誰かに似ている気がする」としていますが、喜多嶋先生の正体は大人になったアキです。
城でこころによって助けられたアキは、未来でこころを助けています。
アキ=喜多嶋先生は、紅茶が伏線になっていました。
アキは水筒にアップルティーを入れてくる。
そして、喜多嶋先生がこころに渡した紅茶はストロベリーティーでした。
アキは紅茶、なかでもフルーツティーが好きなんですね。
また、アキが勉強をするようになったのは、城でのフウカの言葉がきっかけ。
「勉強は、一番、ローリスクだから」
「かがみの孤城」本文より
「やっておいて絶対に無駄にならないって、教えてくれた人がいて」
フウカにそう教えたのは喜多嶋先生であり、未来のアキなんですけどね。
オオカミさまがアキを助けた理由
リオン以外の6人が城を出た後、リオンはオオカミさまに“自分の姉(実生)ではないか”と尋ねます。
リオンと実生の年の差は7つ。
実生は3月30日に亡くなってしまったので、城が開くのは3月30日まで。
城が水もガスもないのに電気だけが通っているのは、彼女の持っていたドールハウスがモチーフになっているからでした。
「狼」「7人」「鍵の隠し場所(時計)」は、実生が好きだった童話「七ひきの子やぎ」がもとになっています。
(ちなみに、城のこころの部屋には「七ひきの子やぎ」も、アキを助け出すときにこころがイメージした「大きなカブ」の童話もあります)
義理のお父さんに乱暴されそうになるアキを、オオカミさまは手鏡を使って城へ逃げさせました。
後に、病気で学校に通えない実生は、病院で喜多嶋先生に勉強を教えてもらっていたことが明かされます。
つまり、実生(オオカミさま)にとって、喜多嶋先生(アキ)は恩人です。
だからこそ、オオカミさまはアキを助けたのだと思います。
7人はお互いを覚えていたのか
「城でのことを覚えていたい」というリオンの願いについて、オオカミさまは「善処する」とだけ答えています。
2006年4月のこころの描写を見る限り、こころは城でのことは覚えていません。
しかし、ラストでリオンはこころに「おはよう」と声をかけていますし、こころもリオンに対して「名前を知っている気がする」と考えています。
おそらくですが、城の記憶は大方消えているとしても、お互いの名前や顔を見た際に「昔会ったことがあるような」と感じられるようにオオカミさまがしてくれたのだと思います。
アキ(喜多嶋先生)もまた、こころを見たときに、どうしてかは分からないけれど「この時を待っていた」ように感じている描写がありますね。
「ゲームを作っている友達が、マサムネにはいるよ」
個人的に1番感動したのは、スバルとマサムネの関係でした。
マサムネが絶賛していたゲーム会社の天才ディレクター「ナガヒサ・ロクレン」は大人になったスバルです。
マサムネが「ナガヒサ・ロクレン」の名前を唱えたとき、スバルは「ナガヒサ…?」と反応しています。
読んだときは名前を復唱しただけのように思えましたが、別れ際に彼の本名が「長久昴」だと分かると、リアクションの意味が違って見えますよね。
スバルは後に、自分の名前「昴」の別名が「六連星」であることも語っています。
おそらく、スバルは「ナガヒサ・ロクレン」が自分に関係していると悟り、マサムネのためにゲームを作る仕事に就くという使命感に駆られたのではないでしょうか。
辻村深月のおすすめ作品
先述したとおり、本作と少し似ている設定なのがデビュー作の「冷たい校舎の時は止まる」です。
辻村深月ワールドにハマりたいならおすすめ!
内容は「かがみの孤城」より若干重ためかな?という印象です。
もう少し軽めにいくなら「スロウハイツの神様」。
この作品も他作品とのリンクが多いので、読んだら他の作品も楽しめますよ~!
まとめ
以上、辻村深月「かがみの孤城」の感想・解説でした!
7人の中で、ウレシノとフウカのその後が描かれていないんですよね。
これって、この本が刊行されたのが2017年で、ウレシノとフウカが生きている時代には追いついていなかったからではないかと解釈しています。
ウレシノがいる2027年になったら…何かあると期待してていいですか?笑
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