小説

【感想・ネタバレ】「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎|死んでも生まれ変わるだけ

伊坂幸太郎さん「アヒルと鴨のコインロッカー」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。

「アヒルと鴨のコインロッカー」内容

【あらすじ】
大学入学のため引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。標的は――たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ! 四散した断片が描き出す物語の全体像とは? 注目の気鋭による清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

Amazon.co.jp「アヒルと鴨のコインロッカー」

2003年に刊行された、伊坂幸太郎の中では初期にあたる作品。

2つの視点から話が進んでいきます。

1つめは、大学生の椎名によって語られる“現在”のパート。
2つめは、ペットショップに務める琴美によって語られる“2年前”のパート。

2人の語り手が交互に登場し、徐々に2年間の出来事が浮き彫りになっていきます。

「アヒルと鴨のコインロッカー」感想(ネタバレあり)

おすすめ度:★★★★★

あらすじを読んだときと、本を読み終えたときとは全く違う印象を抱くと思います。

読み終えた後は、ただただ切ない、でもどこか温かさを感じる物語

語り手である椎名と琴美は、それぞれのパートには登場しません。
そして、共通して登場していると思われた河崎も、実は現代パートには登場していません。

2年前、現在と、時間を越えて登場しているのは、ドルジ、麗子の2人です。

河崎、琴美、ドルジの物語

僕はいかにも自分が主人公であるような気分で生きているけれど、よく考えて見れば、他人の人生の中では脇役に過ぎない。(中略)河崎たちの物語に、僕は途中参加しているのかもしれない。

「アヒルと鴨のコインロッカー」本文より

途中で椎名が上記のように漏らしますが、そのとおり「アヒルと鴨のコインロッカー」は河崎、琴美、ドルジの物語です。

そして、彼らの2年間の物語のラストパートを見届けることになるのが、椎名にあたります。

琴美も河崎も亡くなってしまい、1人取り残されたドルジ。
そしてドルジも、椎名とコインロッカーにラジカセを隠した後、ポメラニアンを助ける代わりに亡くなったのではないかと思います。

「死んでも生まれ変わるだけだって」

「アヒルと鴨のコインロッカー」本文より

ものすごく切ない話の中で、ドルジの言葉にどれだけ救われることか、、

琴美が死ぬ間際に願っていたように、2人が(なんなら河崎も)生まれ変わって再会できてたら嬉しいなと願うばかりです。

過去を引きずるドルジと、変わった麗子

小説の語り自体は「椎名」と「琴美」が務めているので、河崎やドルジがどんなことを考えていたのか、あまり詳細には語られません。

ただ、河崎や琴美の存在が、ドルジに大きく影響を与えたのは明らかです。

河崎のふりをしたドルジが現代で起こす行動は、ほとんど2年前に本物の河崎や琴美が話したものばかりです。

・ボブ・ディランを「神様」としている(「神様の声」と発言したのは河崎)

・「神様を閉じ込めてしまえばばれない」という琴美の教えからコインロッカーにラジカセを隠す

・猫の「シッポサキマルマリ」は琴美がつけた名前

・猫のしっぽにくじをつけ、新聞で当選してないか確認させるのは琴美が考えたアイデア

・ドルジが冒頭で椎名に語った猫の話は河崎がつくってドルジへの課題にしたもの

言ってしまえば、ドルジはまだ2人がいた頃を引きずっているのかもしれません。

これは彼ら3人の物語であり、犯人が1人生きている限り、ドルジにとってまだ物語は続いているのですから。

一方で、2年間で変わっているのが麗子

2年前に「痴漢を見て見ぬふりする」と語っていたのが、現代で犯人に立ち向かうようになっています。

「アヒルと鴨のコインロッカー」の意味

タイトルは小説内で交わされる「アヒルも鴨もそんなに変わらない」という話から取られています。

「俺に言わせれば、椎名だってブータン人に見える。俺がアヒルなら、椎名は鴨。それくらいしか違いはない」

「アヒルと鴨のコインロッカー」本文より

上記は作中でのドルジの発言ですが、最後にドルジと椎名がラジカセを隠したのがコインロッカーでした。

だから、ドルジと椎名のコインロッカー=アヒルと鴨のコインロッカーという意味なのでしょう。

ちなみに、ラジカセの中で回り続けるCDは輪廻転生の暗喩ではないかと思っています。
勝手な解釈なので、違うかもしれませんが(笑)

伊坂幸太郎のおすすめ作品

同じく初期の作品ですが、私が1番好きな伊坂幸太郎作品は「ラッシュライフ」です。

仙台の街を舞台に、4つの視点から紡がれる物語

ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、、、
「アヒルと鴨のコインロッカー」同様に、全貌が見えたときの清々しさを味わえるはずです!

↓ネタバレ感想はこちら

まとめ

以上、伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」の感想・解説でした!
ハッピーエンドとは言い難いんですが、どこか希望を感じられる作品ですよね、、

きらり
  • サイト「KIRARI」の中の人。
    読書が好きで、読んだ本の感想を投稿しています。