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【感想・ネタバレ】「ぼくのメジャースプーン」辻村深月|主人公の愛に涙

辻村深月さん「ぼくのメジャースプーン」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。

「ぼくのメジャースプーン」内容

【あらすじ】
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。

Amazon.co.jp「ぼくのメジャースプーン」

ストーリーのメインとなっているのが、“条件ゲーム提示能力”です。

Aという条件をクリアできなければ、Bという結果が起こる」
そう相手に告げることで、相手はBの結果への恐れから、Aの条件をクリアすることに必死になる。

主人公の「ぼく」が持っている、不思議な力です。

幼馴染の「ふみちゃん」が話せなくなってしまった、その原因をつくった犯人に会うことになった「ぼく」。

「ぼく」は犯人に力を使うため、同じ力を持つ親戚のもとで力について学んでいきます。

「ぼくのメジャースプーン」感想(ネタバレあり)

おすすめ度:★★★☆☆

まず思ったのが、「ぼく」頭良すぎ……ということ。
小学校4年生には思えないほどしっかりしてる…!という印象でした。

「ぼく」に“条件ゲーム提示能力”を教える先生となるのが、「ぼく」の親戚であり、D大学教育学部の「秋山一樹教授」

秋山先生って相手が何を考えているかをすごく見ている印象で、正直自分だったら答えるのにタジタジしてしまいそうなんですが、「ぼく」は1つ1つの言葉を理解してしっかり受け答えしていましたね。

さらに、最終的には秋山先生まで騙してしまうという…!

事件の犯人である「市川雄太」に会う2日前、「ぼく」は秋山先生に以下の言葉を投げかけると伝えていました。

「心の底から反省して自分のした行いを後悔しなさい。そうしなければ、この先一生、人間以外の全ての生き物の姿が見えなくなる」

「ぼくのメジャースプーン」本文より

しかし、これはカモフラージュで、本番で投げかけた言葉はこれ。

「今すぐここで、ぼくの首を絞めろ。そうしなければ、お前はもう二度と医学部に戻れない」

「ぼくのメジャースプーン」本文より

「医学部に戻れない」ことを恐れて首を絞めたら、殺人犯になって結局医学部には戻れない、どちらを選んでも同じ結果をもたらすダブルバインド

この言葉を告げることを決めるまでに、「ぼく」がどんなことを考えていたのか。
その怒りや後悔を思うと胸が締めつけられます。

「ぼく」が犯したミス

市川雄太に会う3日前、「ぼく」はクラスメイトのトモと喧嘩をします。
そのときに「ぼく」は“力”を使い、トモにこう呼びかけました。

「もう二度と学校に来るな。そうしなければ、お前はもう二度とふみちゃんと口がきけない」

「ぼくのメジャースプーン」本文より

“力”を使ったことを「ぼく」は秋山先生に話しますが、そのときに「致命的なミスを犯した」と思い当たります。

その場では「夢中で、思いつくまま言った」「クラスのみんなが見ている前で言ってしまった」と言っていますが、これも「ぼく」のカモフラージュですね。

本当は「ぼく」はとても冷静で、相手にどう告げるかをしっかりと考えて“力”を使っていた。

“条件ゲーム提示能力”は、Bの結果への恐れから、Aの条件をクリアすることに必死になる。

つまり、本来なら「もう二度とふみちゃんと口をきくな。そうしなければ、お前は二度と学校に来れない」と言うべきで、A(条件)B(罰)がどう作用するのかを「ぼく」は試していたのです。

結果、トモは「二度と学校に来ない(条件)」ではなく、「二度とふみちゃんと口がきけない(罰)」を選びました。

ちなみに、この時のくだりは後の作品「名前探しの放課後」の内容にも関わってきます。

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「ぼく」もPTSDだった

事件を受けて、ふみちゃんは言葉が話せなくなってしまいました。

一方の「ぼく」はさほど影響を受けていないように見えますが、終盤で彼も味覚障害に陥っていることがわかります。

具体的な記述は「ぼく」と市川雄太の対決後になりますが、判明する以前にも何回か「ぼく」が味を感じていないと思われる場面がありますね。

・不味いコーヒーを気にせず飲んでしまう

・砂糖と塩の分量が逆だったマドレーヌを普通に食べられる

・売店で買ったチョコレートの味がしない

“力”が目覚めたのはいつだったのか

エピローグで、秋山先生は「ぼく」のお見舞いに来たふみちゃんとそのお母さんに会います。

そこで秋山先生は、ふみちゃんが「以前にピアノの発表会で「ぼく」に説得されてピアノを弾きに行った」のを覚えていることを知ります。

“条件ゲーム提示能力”で声を受けた相手は、声をかけられたことを忘れてしまうはず。

つまり、ピアノの発表会時点では、「ぼく」の“力”はまだ目覚めていなかったのです。

「ぼく」が初めてちゃんと力を使ったのは、おそらく市川雄太に自分を会わせるために先生を説得したとき。

その前に「ぼく」はふみちゃんに元通りになるように“力”を使おうとしているので、もしかしたら「ふみちゃんを助けたい」という想いが力を呼び起こしたのかもしれませんね。

「ぼくのメジャースプーン」他作品とのリンク

「ぼくのメジャースプーン」の内容や登場人物は、以下の作品とリンクしています。

「ぼくのメジャースプーン」とリンクしている作品

・凍りのくじら

・子どもたちは夜と遊ぶ

(・本日は大安なり)

・名前探しの放課後

「凍りのくじら」とのリンク

「凍りのくじら」には、ふみちゃんが登場します。
また、一緒に登場する「松永郁也」は、ピアノの発表会でふみちゃんの前にピアノを弾いた「松永くん」です。

ふみちゃんは「話し方教室」に通っているので、時系列的には「ぼくのメジャースプーン」と同じ頃と思われます。

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「子どもたちは夜と遊ぶ」とのリンク

「子どもたちは夜と遊ぶ」は、「ぼくのメジャースプーン」の2年前の物語です。
登場人物、内容が大きくリンクしているので、セットで読むのがおすすめです。

作中の時系列でいうと「子どもたちは夜と遊ぶ」→「ぼくのメジャースプーン」ですが、読む順番としては逆でも楽しめるかと思います。

・秋山先生は「子どもたちは夜と遊ぶ」にも登場
秋山先生はD大学の教授として「子どもたちは夜と遊ぶ」にも登場しています。

「ぼくのメジャースプーン」内で秋山先生が語っている以下の出来事は、「子どもたちは夜と遊ぶ」内のものです。

・2年前に行ったサーカス→台風の日に狐塚と行ったサーカス

・力を使い「自分探しの旅」に出てもらった相手→真紀ちゃんの元彼氏

・血まみれで倒れていた学生に力をつかった→月子を助けようとしたとき

・蠅やアブラムシを殺してもいいのに、蝶やとんぼを殺しちゃいけないのか
この問いは、「子どもたちは夜と遊ぶ」にも登場します。
作中では、秋山先生が月子に対して出しています。

・秋山先生の研究室に通っている“学校の先生”は月子
「ぼく」が初めて研究室を訪れたとき、出迎えてくれたお姉さんは「子どもたちは夜と遊ぶ」に登場する月子です。

料理が苦手なこと、頭に傷跡があることなどから読み取れますね。
蝶の形をしたピンをしているのは、浅葱を想ってなんでしょうか…?

ちなみに、作中で月子は「私の母のマドレーヌは最高です」って答えるシーンがあります。
月子は今回、そんなお母さんのマドレーヌを再現したかったのかも?

・秋山先生が月子の家に行ったとき、一緒にいたのは真紀ちゃんと恭司
秋山先生は一緒にいた3人に「自分の大事なものが奪われた場合、その犯人にはどんな罰がふさわしいか。」を考えてもらい、それぞれの意見を「ぼく」に紹介しました。

名前は挙げられていませんが、おそらく月子・真紀ちゃん・恭司と思われます。

犯人と友達にならなければならない →月子

何もしないで忘れるように努力する →真紀ちゃん

犯人を同じ目に遭わせる →恭司

3人の性格を知っていると、なんとなく「そう言いそうだなあ」と思えますよね。

・一緒に動物園に行ったのは月子と恭司
市川雄太と合う前日、「ぼく」とふみちゃんが動物園に行った際に、秋山先生は「友達」を2人連れてきました。

1人は最初に研究室で会ったお姉さんなので、月子で間違いありません。
もう1人のお兄さんは、右瞼と耳にピアス穴があることから、おそらく恭司でしょう。

「子どもたちは夜と遊ぶ」を読んでいると、2人が再会できていることが嬉しくなりますね。

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・「ぼくのメジャースプーン」の数年後が、「本日は大安なり」
ちなみに、リンクというほどではないかもしれませんが、恭司は「本日は大安なり」にも登場しています。

作中では詳しいことは触れず「色々あった」発言をしていますが、おそらく「ぼくのメジャースプーン」での出来事を指しているのかと。

一瞬ですが、「月ちゃん」(月子)の名前も登場します。

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「名前探しの放課後」とのリンク

「名前探しの放課後」は、「ぼくのメジャースプーン」から6年後の物語です。

「ぼくのメジャースプーン」に登場した人物の多くが、「名前探しの放課後」にも登場しています。
また、結末にも「ぼくのメジャースプーン」の内容が少し関わってきます。

「名前探しの放課後」未読の方のためにここでの詳細は伏せますが、ぜひセットで読むことをおすすめします!

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まとめ

以上、辻村深月「ぼくのメジャースプーン」の感想でした!
辻村さんの作品は、作品同士の関わりが深いのが良いですよね…。

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きらり
  • サイト「KIRARI」の中の人。
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