【感想・ネタバレ】「凍りのくじら」辻村深月|SF(少し・不思議)な物語
辻村深月さん「凍りのくじら」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。
目次
「凍りのくじら」内容
【あらすじ】
Amazon.co.jp「凍りのくじら」
藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。
写真家・芦沢光として活動する25歳の女性、芦沢理帆子の物語。
“芦沢光”はもともと理帆子の父親の名前で、つまり彼女は“二代目・芦沢光”。
写真家として活動しながらも、突然失踪してしまった父の名前を継ぎ、彼女も写真家として活動しています。
とある賞で大賞を受賞し、インタビューに応じる理帆子は記者からこんな質問を受けます。
あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう
「凍りのくじら」本文より
そんなとき、彼女は必ずこう答えるようにしているそう。
暗い海の底や、遥か空の彼方の宇宙を照らす必要があるから
「凍りのくじら」本文より
そして彼女は、その光を何年も前に浴びたことがあるという。
それは、理帆子が高校2年生の頃のことでした。
「凍りのくじら」感想(ネタバレあり)
おすすめ度:★★★☆☆
この本を一言で表すなら、まさに「SF(少し・不思議)」が適切ではないかと。
プロローグとエピローグは、25歳現在の理帆子の話。
そして、物語の大部分を占めるのが高校2年生の頃の理帆子の話です。
先述した「なぜ理帆子の写真の光が強く美しいのか」というくだりがプロローグとエピローグで登場しますが、途中の物語を読んだ前と後では、理帆子の回答の重みが違って聞こえますよね。
また、随所に登場する「ドラえもん」に関するワードもポイント。
理帆子が最も好きだという「のび太の海底鬼岩城」、その中に登場する「テキオー灯」が結末にも繋がっています。
読んでいるうちに、自分も「ドラえもん」見返したくなってきました(笑)
SF(少し・不在)な理帆子
私がこの作品で1番共感したのが、理帆子の心情でした。
周りとは少しズレていると感じる自分。
本当に好きなことを全力で話すと引かれると分かっているから、いつも全力では喋らない。
適当に周りと上手くやって、誰とでもすんなり溶け込めるようにする。
でも、本当の自分を出せないから、どこにいたって自分の居場所はない、「少し・不在」に感じてしまう。
「孤独」と一言で表してしまえば簡単ですが、この微妙な気持ちを丁寧に描いているのは、さすが辻村さんですよね。
そんな気持ちを抱えている理帆子だからこそ、彼女を必要として居場所をつくってくれる若尾大紀に惚れてしまうのも分かります。
若尾は本当に…子どもですね。私は正直、(辻村作品で1位、2位を争うぐらい)彼が苦手です(笑)
人一倍プライドが高くて、でもって寂しがりやなんでしょうけど、ラストの展開はそこまでするかって感じでした。
なんだかんだでずっと執着していた理帆子が、最後に彼を完全に断ち切ったのが良かったです。
別所あきらの正体
理帆子と図書室で出会い、彼女に写真のモデルを頼んだ別所あきら。
彼の正体は、若い頃の理帆子の父親でした。
ラストで「彼の姿は理帆子以外見えていなかった」と明かされているので、きっと幽霊だったんでしょうね。
“別所”は理帆子の父親の旧姓で、芦沢光は「あしざわあきら」と読むのだそう。
「子どもたちは夜と遊ぶ」とかもそうですが、辻村さんの名前トリックにまたもやられました(笑)
あきらが理帆子の父親(の幽霊)であることは、以下のあたりが伏線になっています。
・教室であきらと理帆子が話しているときに、クラスの何人かが不思議そうに見ている記述がある
・海が好き
・好きな女性へのプレゼントにネックレスを買っている
(後に、父が母に写真のモデルを依頼するときにネックレスを贈ったと記述あり)
そしておそらく、あきらが好きな相手は理帆子の母親を指していると思われます。
あきらが母親の汐子を好きになったきっかけは、名前(海に関する「汐」が含まれる)じゃなくて「周りに流されず、いじめられていた女の子に堂々と接していたから」だったんですね。
理帆子の父と松永純也の関係
父の親友であり、彼の失踪後も理帆子たちを気遣ってくれる松永純也。
彼は「お父さんにはお世話になったから」とのみ理帆子に説明していますが、「お世話になった」の真相は、松永の私生児・郁也の面倒を見ていたことでした。
あきらと「何も望まない」と約束(呪い)したのを守り、一言も話さない郁也。
個人的に、郁也は第2の理帆子でもあると思っています。
郁也に「誰かと繋がりたいときは一緒にいたいと言っていい」と告げた理帆子。
理帆子に「郁也と一緒にいてもいい?」と口にさせたあきら。
あきらが理帆子の呪いを解き、理帆子が郁也の呪いを解いたんですね。
エピローグでは、25歳になった理帆子と(おそらく17~18歳ぐらい?)の郁也が、一緒にデパートを歩く様子が描かれています。
そして、プロローグでは分からなかった“写真のモデル”が郁也だったことが明かされていますね。
「凍りのくじら」他作品とのリンク
「凍りのくじら」の内容や登場人物は、以下の作品とリンクしています。
・ぼくのメジャースプーン
・名前探しの放課後
・スロウハイツの神様
・子供たちは夜と遊ぶ
「ぼくのメジャースプーン」とのリンク
「ぼくのメジャースプーン」には松永郁也と、彼と一緒に「話し方教室」に通っていたふみちゃんが登場します。
ふみちゃんが言葉を話せなくなってしまった事件が、この作品で描かれています。
郁也もふみちゃんも小学4年生なので、作中の時系列は「凍りのくじら」と同時期と思われます。
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「名前探しの放課後」とのリンク
「名前探しの放課後」には、松永郁也、郁也の家政婦・多恵さん、理帆子が登場します。
3人はクリスマスパーティーの参加者として登場し、理帆子が写真を撮っている場面も描かれています。
郁也は高校1年生になっているので、「凍りのくじら」から6年後の物語ですかね。
「凍りのくじら」のエピローグとはどっちが先なのか微妙ですが…
郁也は今でもピアノを続けており、「どこでもドアがあったらいいのに」と発言するなど、ドラえもん好きであることも匂わせています。
作中の時系列的に、読む際は「ぼくのメジャースプーン」→「名前探しの放課後」の順番がおすすめです。
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「スロウハイツの神様」とのリンク
「スロウハイツの神様」には、主人公の環と親交のある人物として理帆子が登場します。
ちなみに、主人公たちが住む「スロウハイツ」は、藤子・F・不二雄も暮らしていた「トキワ荘」がモデル。
本作で藤子・F・不二雄がより好きになった方におすすめです。
「子どもたちは夜と遊ぶ」とのリンク
「子どもたちは夜と遊ぶ」のリンクはかなり細かくて、作中に登場するフォトカードが芦沢光の作品とされています。
ちなみに、「子どもたちは夜と遊ぶ」は「ぼくのメジャースプーン」の2年前の物語。
「ぼくのメジャースプーン」と「凍りのくじら」は同時期の物語なので、この“芦沢光”は理帆子ではなくて父親(あきら)の方ですね。
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まとめ
以上、辻村深月「凍りのくじら」の感想・解説でした!
読むと「ドラえもん」が好きになる作品です(笑)
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