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【感想・ネタバレ】「強欲な羊」美輪和音|悪意に満ちた“羊”たち

美輪和音さん「強欲な羊」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。

「強欲な羊」内容

【あらすじ】
とある屋敷で暮らす美しい姉妹のもとにやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた数々の陰湿で邪悪な事件。ついには妹が姉を殺害するにいたったのだが――。はたして“羊の皮を被った狼”は姉妹どちらなのか?圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。揺れ動く男の心理と狡猾な女を巧みに描く「背徳の羊」。愛する王子と暮らす穏やかな日々が崩壊する過程を、女たちの語りで紡ぐ「ストックホルムの羊」ほか全5編。女性ならではの鋭い狂気が秀逸な連作ミステリ。

Amazon.co.jp「強欲な羊」

5編が収録された連作集。

表題作の「強欲の羊」は、美輪和音さんのデビュー作でもあります。

羊の皮を被った狼”をキーワードに、人間の悪質な部分に焦点をあてるストーリーの数々。

読み終えたらちょっと人間不信になりそうな作品です(笑)

「強欲な羊」感想(ネタバレあり)

おすすめ度:★★★★★

美輪和音さんに興味を持ったら、絶対に読んで欲しい作品!

美輪さんの作品といえば「イヤミス」×「ホラー」だと思っているのですが、この「強欲な羊」にはその要素がぎゅっと詰まっています。

個人的に好きな順番で並べると、

・強欲な羊(1話目)
・ストックホルムの羊(4話目)
・眠れぬ夜の羊(3話目)
・生贄の羊(5話目)
・背徳の羊(2話目)

ですかね、、一緒だった方はきっと私と好みが合います(笑)
まあ、どれも甲乙つけがたいぐらい良い作品なんですけどね。

1話ずつ簡単に感想を書いていきます!

強欲な羊

表題作。私が美輪和音に完全にハマった作品です。

美しい2人の姉妹が住む屋敷。
そこで起きた殺人事件について語る女の話。

この作品は、ジャンルでいうとイヤミスに分類されますね。
独白形式な点で、私は湊かなえの「告白」を連想しました。

この話の怖いところって、途中まで誰が誰に対して語っているのか分からないところですよね。

最初から不気味さが漂いますが、語っている“わたくし”の正体と、話を聞いている相手が分かったところで恐怖が倍増します。

姉妹のどちらが悪いのか?という点に焦点が置かれているのかと思いきや、実は事件は“わたくし”によって引き起こされていたという真相。

そして、ラストに次々に回収されていく伏線が本当に気持ちいい!

この不気味な屋敷は、この後の収録作や次作「暗黒の羊」でも頻繁に登場します。

背徳の羊

「強欲な羊」の世界観とは打って変わって現代劇。

こちらは妻の不貞を疑う夫・篠田大介が主人公です。

この作品は明らかに羊子が怪しく描かれていて、そう読み進めるものの、悪人(背徳の羊)は初音だったという展開。

なんだミスリードだったか、と思いきや…
結局ラスト1ページで羊子も悪人だった事実が発覚。

一瞬、一件落着と思ってしまったじゃないかい!!

またもや気持ちよく騙されました(笑)

眠れぬ夜の羊

不眠症に悩む女性・小室塔子が主人公。

ある日、塔子は自身の幼馴染であり、元婚約者を奪った相手である須藤明穂を殺す夢を見ました。

目が覚めると、実際に明穂を被害者とした殺人事件が発生しており、凶器などは異なるものの、塔子は「知らないうちに自分が殺してしまったのでは…」と不安に駆られます。

もう3話目なので、「違うと見せかけておいて、最終的に塔子が犯人だろう」と、今度は最初から塔子を疑って読みました(笑)

まあ当たりといえば当たりなんですが…殺めた相手が異なりましたね。

明穂を殺したのは夫であり、塔子の元婚約者である文彦

そして、実際に塔子が殺していたのは母親でした。
うーん、後味悪い…(褒め言葉です)

殺された後、毎晩枕元で鶴を折り続けるという母親の幽霊が怖いです…。

ストックホルムの羊

王子、カミーラ、ヨハンナ、イーダ、アン・マリー、マリア。
塔、魔女狩り、異国の言葉──。

読み始めてすぐに思ったのは、中世ヨーロッパを舞台にした話だなと。

耽美な世界観も、終始不気味な雰囲気も、(登場人物は複数いるけれど)一人称の語りで物語が進んでいく感じも、1話目の「強欲の羊」っぽいなとワクワクして読み進めました。

そして、ラストのマリアのパートに突入し…
中世じゃない!!!!バリバリ現代じゃん!!!!!!!

はい、まんまと騙されました(笑)
こんなに鮮やかに騙されるとは…私が単純なのかな…

すべてがひっくり返る感じ、最高でした。

被害者が長時間閉ざされた空間にいると、犯人に共感を抱いてしまうという「ストックホルム症候群

怖すぎるけど、20年間監禁されてたらこんな風になってしまうのかな…。
自分たちがおかしいことなんて気づく術もないですしね。

「君は、覆われた窓の向こうに、どんな景色を想像すると思うんだい?」
「青い空……、だと、いいな」

「強欲な羊」本文より

ラストで交わされる、助けに来てくれた男の人とマリアの会話が切ないですよね。

ちなみに、マリア以外の女性たちはどうなったんだろう…と思った方は、次作「暗黒の羊」へどうぞ!

生贄の羊

ラストに相応しい作品。
これまでの4作とすべて繋がっています。

主人公は、「ストックホルムの羊」で助け出された麻里亜(マリア)

ただ、ラストで大路憲人に会いに行く素振りを見せているので、こっちの作品の方が時系列的には前ですね。

作中に登場する「羊目の女の洋館」は、もちろん「強欲な羊」の舞台となった洋館です。

ハスキーヴォイスの女性・あきりんこと「すどうあきほ」は「眠れぬ夜の羊」の須藤明穂
ホテル勤務だという女性・チコさんは、「背徳の羊」の九鬼千砂子です。

ここまで読んできた方なら分かる通り、明穂も千砂子も亡くなっているので、どちらも幽霊だったのでしょう。

ミステリーというよりは、ホラー色全開の作品でした。怖かったーー

美輪和音さんのおすすめ作品

本作を読み終えた方はどうぞ、続編の「暗黒の羊」へ。
「羊目の女の都市伝説」は広まっていき、次々に新たな被害を生んでいきます。

「ストックホルムの羊」など、前作との続きも楽しめます♪

↓ネタバレ感想はこちら

同じく、恐ろしい女性が登場する作品が「捕食(ハナカマキリの祈り)」です。
こちらは長編作品なので、恐怖の世界へたっぷり浸ってください(笑)

「強欲な羊」よりもグロ描写多めなのでご注意!

↓ネタバレ感想はこちら

まとめ

以上、美輪和音「強欲な羊」の感想でした!
話も好きだけど、この本の表紙も好きだったりする・・・(笑)

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きらり
  • サイト「KIRARI」の中の人。
    読書が好きで、読んだ本の感想を投稿しています。