【感想・ネタバレ】「ウェンディのあやまち」美輪和音|ウェンディは誰?
美輪和音さん「ウェンディのあやまち」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。
目次
「ウェンディのあやまち」内容
【あらすじ】
Amazon.co.jp「ウェンディのあやまち」
二人の幼児が自宅に置き去りにされ、一人が餓死するという事件が発生した。物語に登場するのは、客の男にのめり込む恋愛体質のキャバクラ嬢、女優としてドラマ出演のチャンスが舞い込んだ女、自分を痛めつけるように働き続ける清掃員の女……。3人の女を繋ぐ、幼児餓死事件の真実とは――。
感想はあまり書けていないものの、美輪さんの作品は結構読んでいます。
ホラー色が強い作品が多いんですが、本作はかなり社会派作品ですね。
実際の事件をモチーフにしていて、胸が締め付けられるし、怒りも感じます。
ネグレクトの描写がリアルなので、苦手な方はご注意を。
※参考文献とされているルポがこちら。
小説読んだ後にこちらも読んだのですが、リンクする部分もあるので興味を持った方はぜひ。
「ウェンディのあやまち」感想(ネタバレあり)
おすすめ度:★★★★★
この作品は本当に構成が素晴らしい…!
視点をコロコロと変えながら、事件の全貌が明らかになっていく様子にページを捲る手が止まりませんでした。
胸糞悪くなる感じはありますが、私は大好きです。
美輪さんの作品読むときはそれを期待しておりますので(笑)
百目鬼千尋は誰か
この作品は、大きく4つの視点から描かれています。
・キャバクラ嬢(千里)
・新人女優(杏奈)
・ラブホテルの清掃員(鈴木)
・2つの虐待事件を追う新聞記者(鰐淵)
面白いのは、誰が誰なのか全く分からないこと。
途中までフルネームが明かされなかったり、名前が登場していても偽名だったりするので、すべての人物を疑って読まなければなりません。
注目すべきは、2人の子どもを置き去りにし、保護責任者遺棄致死の疑いで行方を追われている「百目鬼千尋」が誰なのかですよね。
おそらく、最初に疑うのは「千里」と「鈴木」の2人かと思います。
千里は事件が起きた埼玉に住んでいることを明かしているし、いかにも子どもがいるのを隠している風。
鈴木は記者に「百目鬼」と呼ばれて逃げているから、偽名だと予想できますよね。
ただし、これはどちらもミスリード。
結論、百目鬼千尋は千里の恋人である「健斗」でした。
千尋っていう名前だから、女性かと思ってしまいますよね…。
私は健斗だとは全く思わず、やられた~という感じでした。
振り返ってみると、冒頭に千里に家に行きたいとせがまれたときに汚いから無理と断っていたことや、貧乏くじを引かされたと語っているのがヒントになっていたのかなと思います。
最終的に誰が誰だったのかは以下。
・千里 →池本千里
・健斗 →百目鬼千尋(蓮と柑奈の父親)
・杏奈 →百目鬼杏奈(蓮と柑奈の母親)
・篤彦 →田中篤彦
・鈴木 →百目鬼柑奈(餓死事件の被害者、千尋と杏奈の長女)
・乾 →乾幸基(犬小屋監禁事件の被害者)
・鰐淵 →鰐淵清志郎(息子が餓死事件に関わっていた)
時間軸のズレ
この作品は、時間軸のズレも1つのトリックになっています。
4つの視点のうち、鈴木と乾がいるパートが現代(事件から15年後)。
千里、杏奈、鰐淵の視点で語られる3つのパートは、2003年(事件発生当時)です。
時間軸がずれているのがはっきり分かるのは、中盤で乾が自身を「犬小屋監禁事件」の被害者だと明かすところ。
2つの事件は同じ2003年に発生していることが、他のパートから分かりますよね。
百目鬼一家の事件以外に「犬小屋監禁事件」も色々なところで語られるので、絶対関係しているんだろうな~とは思ったんですが、まさか乾が被害者だとは気づきませんでした。
ラブホテルの清掃シーンで柑奈(鈴木)が乾のことを「色々聞いてくる」と語っていますが、おそらく乾は柑奈の正体を探っていたんでしょうね…。
あと、ラブホテルの清掃シーンで乾が「18歳は成人か?」と尋ねる前に言っているこのセリフ。
「日本も成人年齢を二十歳から十八歳に引き下げるって、ついこの間閣議で決定されたじゃないですか。」
「ウェンディのあやまち」本文より
これって2018年のことですよね。
さらっと読み飛ばしてしまいそうだけど(実際私は読み飛ばしたけど)、ヒントだったんな…。
ちなみに、他のパートでの会話には「さくら(独唱)」「お茶犬」「モー娘。」など、ちゃんと2003年に沿ったものが登場しています。細かい…!
ウェンディとピーター・パン
読んでいて1番印象に残ったのは、乾のこのセリフ。
「ピーター・パンという子供を好きになって振り回されている時点で、その関係を断ち切れない時点で、ウェンディも大人になれない子供なんです」
「ウェンディのあやまち」本文より
序盤に登場するウェンディ・テストなどでは「ウェンディは母性本能が強い」と書かれているので、どちらかというとウェンディ=大人な印象を抱くように思います。
でも実際、杏奈や千里は、千尋というピーター・パンに振り回されているウェンディで、大人になれない子供。
杏奈は事件が発覚した後も、千尋と同じように責任を他になすりつけようとしています。
千里も千尋にのめり込んで、自分の子どもに会うことを疎かにしていました。
一歩間違えれば、彼女も何らかの事件を起こしてしまっていたかもしれません。
そして、終盤で千里が語っていたこの部分。
「親になったからといって完璧な大人になれるわけではなく、どんな親にも子供の部分あるのだということが。そして闇のない子育てはないということも。」
「ウェンディのあやまち」本文より
大人になったと思っていても、きっと誰もがピーター・パンやウェンディのような部分を持ち合わせているものかもしれません。
そして、誰もが過ちを犯す可能性があることを、この作品では伝えたかったのではないかと解釈しています。
美輪和音さんのおすすめ作品
個人的な美輪和音さんのおすすめは、デビュー作「強欲な羊」です。
5作の短編集。ホラーとイヤミス要素強めです。
↓ネタバレ感想はこちら
同じ社会派小説でいえば、「私たちはどこで間違えてしまったんだろう」もおすすめですかね。
村祭りで起きた毒物混入事件をめぐる物語で、和歌山毒物カレー事件を彷彿させます。
↓ネタバレ感想はこちら
まとめ
以上、美輪和音「ウェンディのあやまち」の感想でした!
人間の“毒”を描く美輪和音さんの作品、1度ハマると抜け出せなくなりますよ(笑)
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