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【感想・ネタバレ】「ゴーストフォビア」美輪和音|芙二子が良いキャラすぎる

美輪和音さん「ゴーストフォビア」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。

「ゴーストフォビア」内容

【あらすじ】
いつもの憂鬱な朝、急に「サイキック探偵になる」と言い出した姉・芙二子に振り回される三紅。行方不明の女性の調査をすることになった二人は、事故物件を扱う不動産屋の神凪怜と出会う。三紅の心酔する霊能者に似たクールな印象の男性だが、どこか胡散臭い。しかし、偶然に三紅が神凪に触れた瞬間、聴力を失ったはずの右耳から、不思議な声が聞こえてくる。その一方、神凪も見えないはずのモノが見えているらしい――。

Amazon.co.jp「ゴーストフォビア」

女子高生の「等々力三紅」と不動産屋の「神凪怜」が、幽霊にまつわる事件を解決していくストーリーです。

「フォビア」は恐怖症を意味していて、タイトルの「ゴーストフォビア」は「幽霊恐怖症」。(正式名称はファズモフォビアらしいです)

作中では、神凪が幽霊恐怖症なんですよね。

一方の三紅も、とある事件から接触恐怖症を患っています。

そんな2人が互いの体に触れると、神凪は幽霊の姿が見え三紅は幽霊の声が聞こえるという設定。

さまざまな恐怖症と、ちょっぴり怖い事件たちを描いた全4作の連作短編集です。

「ゴーストフォビア」感想(ネタバレあり)

おすすめ度:★★★★★

ちょっとコメディ要素もあるというか、全体的に明るめなので美輪さんらしくないかもしれないですが、個人的には結構好きな作品でした!

互いの体に触れると、幽霊の姿が見えたり声が聞こえたりする。

事件の謎を解くには幽霊に話を聞くしかない。
でも神凪は幽霊が怖いし、そもそも三紅は接触恐怖症だから触れたくない

もう、この設定だけで面白いじゃないですか(笑)
いくらでも話描けそうだし、ドラマとかでもいけそうですよね。

そして、何かと問題を起こしまくる三紅の姉・芙二子が良いキャラしています(笑)

それでは1話ずつ感想をどうぞ。

ゴーストフォビア

表題作で、行方不明になった演劇部員の女子大生を探す話。

霊能者「レイ・ブラック」が出演していたテレビ番組の結末を当てたことから、「自分もサイキック能力がある」と勘違いしてサイキック探偵を名乗り始めた芙二子。

ただし、見ていた番組は再放送で、以前に芙二子も一緒に見ていたことに三紅は気づいています。
芙二子、すでにぶっ飛んでる(笑)

早速「行方不明の学生・辻向日葵を探して欲しい」と依頼を受けた芙二子は、三紅とともに学生が住むマンションへ。

そのマンションは以前に監禁事件があり、津野田葉子という女性が亡くなったことから「ハコさんの幽霊が出る」と言われていました。

芙二子と三紅が部屋を訪れると、マンションを管理する不動産屋の息子・神凪怜が先に来ていて、彼も一緒に学生を探すことに。

自分の行動を、神凪はここで「前職への未練」と語っていますが、“前職”が明かされるのはもう少し後の話ですね。

結局、事件は神凪の推理によって解決。
初っ端から色んな「フォビア」が登場しましたが、今回は「トライポフォビア(ぶつぶつ恐怖症)」がポイントになっていました。

事件を起こした江良市子が、苺を差し出されたときに拒否したことや、蜂の巣を見て悲鳴をあげたことなどが伏線でしたね。

めでたしめでたし…で終わるのかと思いきや、まさかのゾッとするラスト

市子は向日葵を監禁するときに「ハコさんが手伝ってくれた」と言っていましたが、三紅と神凪が見た幽霊も間違いなく「ハコさん」。

ハコさんは除霊をしようとした芙二子の体に乗り移り、自分を監禁した人物を殺しにいったんですね…恐ろしい。

ただのミステリー作品で終わらせない感じが美輪さんらしいなと思います。

空飛ぶブラッディマリー

個人的には、この話が1番好きかな。
「ゴーストフォビア」は三紅視点ですが、ここからの3話は三紅と神凪両方の視点からで話が進みます

舞台は3人の女子高生が自殺し、その幽霊たちが彷徨っていると言われるマンション。

女子高生たちの幽霊に乗り移られて自分も自殺してしまうかも、と心配するマンション住人からの依頼で、芙二子と三紅はまたしても除霊に向かいます。

そして案の定、このマンションを管理しているのは神凪不動産。
居合わせた神凪は、三紅とともに幽霊の話を聞きますが、彼女が自殺ではなく「殺された」と発言していることに気づきます。

この話は、細かい伏線が結構ちりばめられていて。

室内と外にいる幽霊の声が違うこと、幽霊が血を見て逃げ出したこと、芙二子がデートに利用すると言っていた廃病院、尚志の部屋にあった食紅…。

この辺りが最後に全部繋がる感じが、個人的にはものすごく好きでした。

芙二子は「サイキック能力があるから幽霊にはとりつかれない」と言っていますが、この話でも体に乗り移られていますね(笑)

そういえば、逆に三紅や神凪は幽霊が見えたり聞こえたりするから、体に乗り移られることはないんだなーと。

そして、ラストもまたゾッとする終わり方でした。
その前の三紅と神凪の説得がかっこよかったですね。

あと、冒頭で三紅が「雨が降る前のにおいが嫌い」と言っていますが、これはラストの話に繋がってきます。

ドールの鬼婚

娘・雛子の死後、不気味な人形ばかり作るようになってしまった人形作家・九条月子と、その後に起きた月子の死亡事件にまつわる物語。

この話では、三紅と芙二子の長姉・一紗が登場します!
一紗は1話目の「ゴーストフォビア」で名前だけ登場しているので、いつ出てくるのかとワクワクしていました(笑)

一紗は千葉県警刑事部主任で、かつての神凪の上司。

ここで、神凪の前職が刑事だったことが明らかになります。
これまでの鋭い観察眼を見ていると納得ですよね。

ストーリーは舞台が人形館ということもあって、終始不気味な雰囲気が漂っています。

雛子そっくりの人形に宿っていたのは、月子の言う通り雛子の霊ではなく、隣の集落に住んでいた女の子・すみれだったのかと。

そして人形は焼かれず、すみれの幽霊も除霊されずにまだこの世にいる──というラストでしたね。

個人的に、神凪が月子の妹・佐代里を気遣っているときに、ちょっと嫉妬心を抱いているような三紅が好きです(笑)
神凪が佐代里に丁寧に接していたのは、彼女が持つグラスについた指紋を採取するためだったんですけどね。

三紅の神凪への気持ちは恋心なのか、彼がレイ・ブラックに似ているがゆえの憧れのような感情なのか…気になるところです。

雨が降り出す前に

ラストは、連続殺人犯・堂平大吾を巡る物語。

堂平大吾に惚れていた女性の行方不明事件から幕を開けますが、この話は三紅と神凪の過去もメインテーマになっていますね。

堂平大吾は警察に追われる中で海から転落し亡くなっていますが、この時彼を追っていた人物こそ刑事時代の神凪でした。

一方の三紅も、自分では覚えていなかったものの、子どもの頃に堂平大吾に連れ去られかけた事実を一紗から聞かされます。

通りかかった男性によって助けられたものの、ちょうど雨が降りそうなタイミングで、三紅が「雨が降る前のにおいが嫌い」な理由はこのためでした。

そして、作中で何度か登場する「人生で起きるすべてのことはつながっている」
これは、三紅と神凪の関係性を表していますね。

幼い三紅を堂平大吾から守ったのが神凪。
海に落ちてから幽霊にとりつかれかけた神凪を救ったのが、三紅たちの母親。

前3話で曖昧になっていた出来事が、綺麗に回収された話でした。
ラストもこの話だけは明るい感じで終わっていますね。

美輪和音さんのおすすめ作品

個人的な美輪和音さんのおすすめは、デビュー作「強欲な羊」です。
「ゴーストフォビア」のように明るくはありませんが、ホラーとイヤミス好きならぜひ!

↓ネタバレ感想はこちら

ちょっと違う系統なら「ウェンディのあやまち」です。
こちらは実際の事件をもとにした社会派小説。ミステリー要素も満載です。

↓ネタバレ感想はこちら

まとめ

以上、美輪和音「ゴーストフォビア」の感想でした!

続きも書けそうな話だけど、「雨が降り出す前に」が綺麗に終わっているから無いのかな…
また三紅・神凪・芙二子に会いたいです(笑)

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きらり
  • サイト「KIRARI」の中の人。
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