【感想・ネタバレ】「子どもたちは夜と遊ぶ」辻村深月|不幸にならないで
辻村深月さん「子どもたちは夜と遊ぶ」の感想です!
ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。
目次
「子どもたちは夜と遊ぶ」内容
【あらすじ】
Amazon.co.jp「子どもたちは夜と遊ぶ」
始まりは、海外留学をかけた論文コンクール。幻の学生、『i』の登場だった。大学受験間近の高校3年生が行方不明になった。家出か事件か。世間が騒ぐ中、木村浅葱だけはその真相を知っていた。「『i』はとてもうまくやった。さあ、次は、俺の番――」。姿の見えない『i』に会うために、ゲームを始める浅葱。孤独の闇に支配された子どもたちが招く事件は、さらなる悲劇を呼んでいく。
2005年に刊行された、辻村深月さんの2作目の小説。
子どもの頃、とある事件によって双子の兄・木村藍と生き別れになった大学院生の木村浅葱。
インターネット上で再会を果たした2人は、現実世界でも“再会”を果たすために、世間を相手にした殺人ゲームを始めます。
2人が起こす殺人ゲームは、次第に浅葱の周囲にいる人間を巻き込んでいきます。
「子どもたちは夜と遊ぶ」感想(ネタバレあり)
おすすめ度:★★★★★
初っ端から重苦しいし、(これは辻村作品あるあるですが)導入部分がかなり長いので、結構読むのをためらう人が多い作品だと思います。
でも、辻村深月に興味を持ったら絶対読んで欲しい作品。
1作目の「冷たい校舎の時は止まる」よりは、ファンタジックな要素は薄めかな?
個人的には、本作の方が好きです。
「子どもというのは、たとえどこにいても残酷で容赦がないものだから」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
これは、月子のゼミの教授・秋山一樹の言葉なんですが(浅葱がいた施設について言及したときのもの)、そんな「子どもたち」の物語ですね。
ちょっと細かく、好きな点を書いていきます。
孝太と月子
本作最大のトリックがこれ。
浅葱視点で読むと、すっかりミスリードされてしまう2人の関係性。
狐塚孝太と月子は、恋人ではなく兄妹です。
私は全く気づけませんでした(笑)
振り返っていくと、色々ヒントはあるんですけどね…。
・子供の頃に月子と孝太は一緒に遊んでいた
・深夜まで月子の部屋で寝ていても自宅に帰る孝太(恋人だったらきっと泊まりますよね…)
大学生になって、こんなに仲が良い兄妹いるか?って感じですが…
孝太と月子が不思議な関係(って言ったらおかしいのかな)のは、2人の母親・日向子と亡くなった父親が影響しているんじゃないかと思います。
日向子は子どものような母親で、月子も孝太も「お母さん」ではなく「日向子さん」と呼ぶ。
そして、孝太と月子は、亡くなった父親に「母さんをよろしく」と言われていました。
孝太と月子は、日向子の「親代わり」をしていたんだと思います。
下巻では、2人が再婚した日向子の結婚式を行うシーンも描かれていましたね。
日向子を送り出したときに、「いつまでも私のお兄ちゃんでいてくれる?」と言った月子。
彼女の望む限りはずっと親代わりを務め、家族であり続けようと誓った孝太。
その流れか、月子は孝太を追ってD大学へ入学します。
一方、作中では月子が「もう1人で大丈夫」だとするシーンも見られますよね。
「狐塚孝太は、今でもまだ月子が自分を必要としてると思っているんだろうか。」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
結果的に、孝太の留学を機に、月子も本当の意味で大人になったということなのかな。
ちなみに、孝太が実際好きなのは真紀ちゃん。
最初の方で、孝太のことを「狐塚さん」と丁寧に呼ぶ真紀ちゃんに対して、月子は「もっと仲良くしてよ」と言ってたと書かれています。
月子は孝太くんの気持ち、とっくに気づいていたんだろうな。
萩野さんに対してもそうだけど、月子ってすごく周りを気遣う優しい子ですよね。
誰も浅葱の歯止めになれなかった
台風の日、倒れた浅葱を助けた恭司は2人で話をします。
デタラメな生き方をしないように、自分は大好きで泣かせたくない人(歯止め)を作るようにしている。
その歯止めが、恭司にとっては孝太(+月子)だった。
恭司がその考えに至る前に見た映画の内容は、物語の今後の展開を示唆しています。
「二人がすれ違い、殺人者が彼女を誤解してどんどん追い詰められていく過程を描く。男は救われなかった」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
「うまくすれば崩壊や破滅を止められたのに、少しずつタイミングがずれたせいでそれが叶わなかった」
月子が実際に好きだった相手は浅葱。
浅葱も、月子と孝太を兄妹と気づいていれば、月子を被害者にしてしまうことはありませんでした。
浅葱にとっての歯止めは、「i」ではくて、本当は月子や孝太であるはずだった。
盲目の天使は浅葱の元に降りていたのに、浅葱は気づけませんでした。
iと藍と愛
「子どもたちは夜と遊ぶ」を読むと、“愛”についてすごく考えさせられます。
浅葱が兄の藍(i)と行っていると信じていた殺人ゲーム。
実際、「i」は浅葱の中にいたもう1つの人格でした。
「i」が事件の際に必ず身支度を整えて出ていくのは、浅葱に分からせないためだったんですね。
一瞬、恭司が孤児だということで事件に関わっているのでは?とも匂わせていますが、これはあくまで先述した恭司の生き方を話すための前フリでした。
“歯止め”の話をした際に、2人は以下のやり取りもしています。
「俺の月ちゃんを泣かさないでよ」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
「その時はお前に謝りにくるよ。思う存分殴っていい」
浅葱はこの時の約束を覚えていて、警察から逃げた後に恭司に連絡し、恭司は浅葱を月子のもとへ送り届けた。
恭司が最初からこうするつもりだったとすると、直前の「俺、月ちゃん大好きなんだ」のセリフの重みが変わってきますよね、、
浅葱が恭司として会ってしまったら、恭司は二度と月子に会えないかもしれないのに。
殴られたものの、奇跡的に一命を取り留めた月子は、大学時代の記憶を失っています。
以下は、浅葱に殴られた直後の月子のセリフ。
「私は構わない。全て忘れて二度と思い出さない。彼にそう約束した。」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
だから月子は記憶を失っているし、悲しいけど、これからも思い出すことはないのかな、、
恭司のフリをして月子に会いに来た浅葱は、彼女にこう告げます。
「君が生きているというそれだけで、人生を投げずに、生きることに手を抜かずに済む人間が、この世の中のどこかにいるんだよ。」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
今度こそ浅葱は、月子を歯止めにしてどこかで生きているんでしょうね、、
う~ん、月子・浅葱・恭司、それぞれ愛が深い…
切ないけど、少し光を感じるラストでした。
「子どもたちは夜と遊ぶ」他作品とのリンク
「子どもたちは夜と遊ぶ」の内容や登場人物は、以下の作品とリンクしています。
・ぼくのメジャースプーン
・本日は大安なり
・凍りのくじら
「ぼくのメジャースプーン」とのリンク
「ぼくのメジャースプーン」は、「子どもたちは夜と遊ぶ」の2年後の物語です。
「子どもたちは夜と遊ぶ」を読んだらぜひ!続けて読んでください。
謎だった部分がスッキリするし、登場人物たちの再会に嬉しくなるはずです。
・「お化け教室」の真相
「ぼくのメジャースプーン」には、月子のゼミの教授である秋山一樹がメインの人物として登場します。
本作で謎めいた感じで終わった、秋山先生が真紀ちゃんの元カレに何をしたのか。
詳しくはこちらで分かるようになっています…!
・月子、恭司、真紀ちゃんのその後
そして、月子と恭司は無事に再会を果たしています。
本当に良かった、、
作中で名前は伏せられていますが、「お姉さん」として月子、「お兄さん」として恭司が登場。
さらに秋山先生の友達として、真紀ちゃんがセリフのみで登場しています。
ちなみに、恭司は髪を黒くしてピアスも外していて、就職していることを匂わせています。
作中で赤川翼が「藍さん(浅葱)が言っていた」というこのセリフ。
「生きることに手を抜いてはいけないよって、別れる日の朝にアドバイスされた。」
「子どもたちは夜と遊ぶ」本文より
「人生っていうのは確かに死ぬまでの長い暇つぶしに過ぎない。だけど、だからって手を抜いちゃ駄目だ。」
妄想ですが、これを浅葱が恭司に伝えてて、恭司が就職するきっかけになってたらなんか嬉しいな。
↓ネタバレ感想はこちら
あ、ちなみに秋山先生は「名前探しの放課後」にも一瞬登場しています。
ただ、順番的には「ぼくのメジャースプーン」→「名前探しの放課後」で読んだ方が話は分かりやすいです。
「本日は大安なり」とのリンク
「本日は大安なり」には、留学から帰ってきた孝太と、恭司が登場します。
脇役ながら、相変わらず大活躍する2人が見られます(笑)
時系列的にいつ頃の話なのかは書かれていませんが、孝太は5年間留学しているはずだから、5年後の話なんですかね。
↓ネタバレ感想はこちら
「凍りのくじら」とのリンク
ちょっと分かりにくいんですが、「凍りのくじら」ともリンクしているシーンがあります。
萩野さんと月子が買い物に出かけたシーンで、萩野が月子にプレゼントしたアサギマダラのフォトカード。
これは「凍りのくじら」の主人公・理帆子の父、芦沢光の作品です。
こんな細かいところまで繋がっているなんてすごい…!
↓ネタバレ感想はこちら
まとめ
以上、辻村深月「子どもたちは夜と遊ぶ」の感想・解説でした!
本を読んだ時に「この後この登場人物たちってどうなったんだろう…?」って思うことが多いんですが、辻村さんの作品はそれが分かる楽しみがありますよね。
また孝太・月子・恭司・真紀ちゃん・秋山先生に再会したいです。(いつか浅葱にも会いたいな)